★シャイな幸の独り言
人間の猿真似
2002年6月17日月曜日
 朝日新聞 2002年6月15日号夕刊によると、ヒトとチンパンジーとのDNA差は、わずか1.2%しかないそうです。ニホンザルと、ヒト・チンパンジーが分岐したのは約三千万年前、そして、ヒトとチンパンジーが更に分岐したのは約五百万年前だそうで、結局、チンパンジーは人間に非常に“近い”のですね。DNAの全塩基配列をもとに計算された結果が以下のHPに紹介されています。
http://www.nig.ac.jp/museum/evolution/D/dna-07.html

映画「PLANET OF THE APES 猿の惑星」より
ポスターはnostalgia.comの許諾
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 ティム・バートン監督の映画「PLANET OF THE APES 猿の惑星」では、エイプ・シティでの最高権力者となるティム・ロス演じるセード将軍はチンパンジーです。因みに軍隊長アターと軍隊はゴリラ。マーク・ウォールバーグ演じる人間の大尉のレオ・デイヴィッドソンにほのかな思いを寄せるヘレナ・ボナムカーターのアリはオランウータンでしょうか。また、宇宙船で反乱を起こしたセモスというリーダーのオスザルもチンパンジー。宇宙探査機のヴァーチャル運転と実際の操作もしたペリクリーズもチンパンジーでした。「猿の惑星」と一口で言っても、サルの種類はいろいろです。

 私はおサルが大好きです。そのおサルの最近のニュース二つが印象的でした。

 先ず、米アリゾナ州立大学のサル実験成功のニュース。サル実験で、コンピュータ画面のカーソルを、手を使わないで、“念じて”動かすことに成功したのです。サルはカーソルを思うようにコントロールできたそうです。スゴイですね。この実験で、将来、指を、まして声を使わなくても、頭で思うだけでコンピュータを使えるかもしれないのです。何と便利で画期的!将来もっと研究が進み、かっこいいヘッドキャップでも開発されて商業ベースに乗れば、身障者にとって朗報で、高齢化社会にはなくてはならないツールになるでしょう。
 実験方法はこんな風だそうです。先ずサルに、スクリーンに立方体の立体画像を映して見せる。次に、その立方体の中心から8つの頂点に、腕を使ってカーソルを動かさせる。これがサルにとってはなかなか難しいらしい。訓練してそれができるようになったら、腕は固定して、脳の電気信号だけでカーソルが動くように設定。勿論、最初はカーソルをうまく動かすことはできない。でも、繰り返しカーソルを頂点に動かす試行をさせる。そして、遂に、サルは画像を見ながら、頭で思い描く通りにカーソル移動に成功。この実験に使われたのはアカゲザルでした。
 アカゲザルは、インド・アフガニスタンから中国・ベトナムの森林に生息し、腰の毛が赤褐色であることからついた名前。色以外の容姿は日本猿と似ています。学術名は Rhesus Macaque 或いは Rhesus Monkey といいます。いろいろな実験に使われているらしく、因みに血液型の Rh プラスとか Rh マイナスとか言う、 Rh 式血液型はこのアカゲザルRhesusを使った実験が由来だそうです。また、半年ほど前、房総半島最南端に生息する野生化した外来種のサルと、固有の在来種ニホンザルとの混血を防ぐため、外来種は捕獲され、薬物安楽死という運命になったことも記憶に新しいことです。この外来種とは、調べたらアカゲザルでした…。
 
 そして、もう一つの明るいニュースは、天才チンパンジー・アイちゃんの息子のアユムちゃん。愛知県犬山市の京都大学霊長類研究所で松沢哲郎教授率いる研究チームで観察中の、可愛いアユムちゃんは2歳を迎えました。松沢教授と母親アイちゃんはテレビで観たことがあります。可愛いと言っているだけでなく、毎日、健康状態に気遣いながら、実験・観察と分析を繰り返してチンパンジーを解明しておられる研究所の皆さんには本当に敬意を払います。
 このアユムちゃん達の観察記録とビデオを京大霊長類研究所のHPで見せてもらいました。コンピュータの画面にリンゴの写真が続けて出て消え、それに合わせて5回タッチすればご褒美の本物のリンゴの小片がもらえる、というところまでアユムちゃんは進んでいます。お母さんのアイちゃんは数字も漢字もマスター済みの努力家チンパンジー。ご褒美で出てくる 100 円玉を特製自動販売機に投入し、自分の好きな食べ物を選んで、スイッチを押して手に入れる、ということまでできるのです。アユムちゃんは生後、ずーと母アイちゃんに抱かれ、又は傍らに居て、母親がコンピュータで課題をするのを見てきました。それで、生後 10 ヶ月で自然にコンピュータで何種類かの課題をこなせるようになったそうです。でも、親が子に教えたり手伝ったりはしないで、人間で言えば「徒弟制」に似ていて、アユムちゃんが自分で出来るようになるのをアイちゃんは見守っているとのことです。

 チンパンジーを知ることは人間を知ることだとあります。チンパンジーは記憶力においては人間と匹敵し、DNAの塩基配列の違いも上述したように約1.2%にすぎません。およそ 500 万年前は人間とチンパンジーは全く同じ生き物でした。映画では、チンパンジーは支配者として、野蛮ですが、人類を差別し奴隷として売買し、独自の文化と歴史を作っています。人間の文明批判として観ると一方では、チンパンジーの生体実験の批判もあります。科学の内包する道徳との問題は難しくて、幸には分かりません。しかし、少なくとも京都大学霊長類研究所のアイちゃんと息子のアユムちゃんにおける研究は、私たち人間の心の領域まで解明してくれるかも知れません。SFチックかも知れませんが、今幸にはっきりと分かることは、豊富な語彙を習得しているアイちゃんやアユムちゃんを見ると、実際知識や文化を伝えるのは人間だけではないということでしょう。
 チンパンジーを通じて、親子の絆・子育て・コミュニケーション・自己認識と他者理解・知性と教育など、彼らから多くを学ばなくてはなりません。
 これが本当の、人間の人間による人間のための「猿真似」でしょうか?
 偉大なエイブラハム・リンカーン(Abraham Lincoln)は、「エイプ(猿)ラハム・リンカーン(Aperaham Lincoln)」である映画の最後のシーンの洒落が分かるような気がします。

参考資料:
※朝日新聞 2002年6月7日号朝刊
※朝日新聞 2002年6月15日号夕刊
※京都新聞(共同通信提供)
  http://www.kyoto-np.co.jp/kp/topics/2002apr/12
/K20020412MKC2Z100000030.html
※京都大学霊長類研究所HP
  http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/index-j.html
  (本文中のリンクは京都大学霊長類研究所 広報委員会の許諾を得ています。)
※アイちゃんのページ
  http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/ai/
※理化学研究所HP
  http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2002/020104/
※地球生物会議HP
  http://www.alive-net.net/wildlife/chimp/wl010428.htm
※All About Apes(類人猿のすべて)
  http://sayer.lab.nig.ac.jp/~silver/aaa-j.html
※THE WORLD OF ZOOLOZY<ティンパンジー>
  http://www.wnn.or.jp/wnn-z/data/africa/cinpanji.html
※「チンパンジーの世界」五百部 裕博士
  http://www.hs.sugiyama-u.ac.jp/~ihobe/chimp/title.html
coda21「映画の森てんこ森」幸田幸。
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